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●第三回 「 育て上手は合わせ上手 」

 今回は、前回までと同じ場面を、若手社員ではなく新入社員を相手にした場合で考えてみたいと思います。

【場面その3】

 「 新入社員研修」 で自社が採用する分析設計手法を学んだ直後、実際についた業務では別の手法で作業を行なうように上司から指示された。

 あなたが 新入社員 だったなら、何番の反応をしますか?

1.上司から指示されたことだから、何の疑問も感じずに黙って従う。

2.上司から指示された以上何らかの意図があるのだと解釈し、黙って従う。

3.「なぜだろう?」と疑問に思いながら、上司の指示だから黙って従う。

4.「社内標準と言っていたのに標準でもなんでもない、それが現実。あの研修は何だったのだ。馬鹿馬鹿しい」と、不満を抱えながら、しぶしぶ従う。

5.「申し訳ありません。ひとつ教えてください。どうして社内標準の手法を使わないのですか?」と質問する。

 そうですね。多くの場合、「2」か「3」の反応をしてしまうのではないでしょうか。

 若手社員の場合は、「5」の反応が一番の「育ち上手」( 連載1回目「プロローグ」参照)ですが、入社間もない新入社員にそれを求めるのは酷というものです。

 社会人になって間もない新入社員にとっては、見るものも聞くものも新しい事ばかりで、覚えることだらけの毎日です。そんな中で生まれる疑問は数限りなく、それぞれの疑問はすべて自分の知識不足によるものと考えてしまってもおかしくはありません。

 まして、指示する側と指示される側の関係はまだ構築途中にあり、指示する側の多くは雲の上の存在でしょう。そんな相手に対して、指示内容やその意図に対する疑問など、おいそれと口にできるものではありません。疑問すら持たないこともありえます。

 ですから、こういう場合は指示する側がその点を考慮して、きちんとフォローしなくてはなりません。

 例えば、このようなフォローが考えられます。

 「ところで、先日まで受けていた新入社員教育で学んだ手法とは違うことに疑問を感じないかい?」

 ここで初めて、新入社員は「そういえば……」と思うでしょう。

 「その理由を説明しておこう。この手法は今回のお客様の標準なので、今回の仕事に関しては自社の標準手法は使わずにこの手法を使う(以下中略: 連載1回目「プロローグ」参照)。当社の標準手法はいずれ使う時が必ずくるので絶対にあの研修は無駄にならないし、その考え方を理解していれば、今回の手法もすぐに習得できるから心配しなくていいよ。」

 そこには、「指示の意図や真意をきちんと理解させ、納得させた上で業務を遂行させることが大事である」という意思が表れています。「指示した作業がきちんとできればそれで良い」という浅い考えではないのです。

 それが部下のモチベーションを高め、仕事の結果に結びつきます。

 そうです。新入社員に対しては、若手社員とは違い、最初からその理由を説明しておく必要があります。さらに、「育て上手」は、ただ説明してその理由を理解させるだけでは終わらせません。以下のようなことを付け加えるのです。

 「少しでも疑問に思うことはとても大切で良いこと。」

 「上司や先輩、たとえお客様であっても、相手の言い間違いや自分の聞き間違いもあり、どちらかの勘違いもありえるのだから、相手の言葉を鵜呑みにしないこと。」

 「すべての作業には意図や目的が必ずあり、それを理解しなければ、正しい作業は行なえない。でも、意図や目的が理解できないとき、あるいは、疑問に思えるときは、そこに何らかの“コミュニケーション・ギャップ”が存在している可能性がある。それはすべての間違いのもとになる。だから、遠慮しないで聞くべきことと思えば聞いていいし、確認することが責任を果たすことになる」

 こういう説明もして、「質問する」「確認する」「意義と目的を理解する」という意識を徹底的に育てるのです。

 若手社員に対しては、「何でも先に説明してしまう」という方法よりも、敢えてその目的や意図の説明を省くことで、当然の疑問に対して質問が出ることを期待し、もしもその質問が出なければそれを促すことでそれを教え込む――という方法が、より適していることが多いでしょう。

 ですが、新入社員の場合は、何の疑問もなく指示に従いがちですから、それを前提にしてきちんと説明することがまず必要です。そしてさらに「なぜ質問すべきなのか」「なぜ確認しても失礼にならないのか」を理解させて、「質問する」「確認する」という基本動作が自然とできるように導くという方法が、より適しているといえます。

 目の前の仕事の成果だけではなく、その仕事に従事する社員の将来も見据えて、成長していくためのヒントを与え、自分で考え行動するように導こうとする――それは、若手社員が相手でも新入社員が相手でもまったく変りません。しかし、その方法が、少しだけ違ってくるのです。

 今回は単純に「若手社員」と「新入社員」という類型で比較しましたが、人間は一人ひとり個性が違い、成長到達レベルも異なります。同じ相手でも、成長度合い(意識や知識、経験の違い)は変化していきますし、もっといえば、その時の心理状態によっても最適な方法は変ってくることになります。

 そんなに細かいところまで配慮し、どんな場合でも最適な方法を完全に遂行するというのは実質的に不可能ですが、その時点で最適と思われる方法を選択しようと努力することがとても大切なことなのです。

 そういう努力を続けることによって、「育ち上手」が生まれ育っていくのです。そしてそれは、「育て上手」自身の成長でもあるのです。

  さて、次回からは新しい場面を取り上げて、「育てる上司・先輩」と「育つ部下・後輩」について、さらに考えてみたいと思います。ご期待ください。

********* 【筆者プロフィール】 ****************************************

島川 孝博
 サンネット株式会社(http://www.sunnet.co.jp/html/) コンサルティング事業部 部長。

 横浜市立大学卒業後、株式会社小田原電子計算センター(現サンネット株式会社)入社。システム開発業務に従事しながら、自社の新入社員教育体系を構築し、社内教育テキストを執筆。プロジェクトマネージャーとして数々のプロジェクトを担当する課程で、知識や技術だけでなくヒューマンスキルが重要であることを痛感し、社内教育体系を整備。社員の成長意欲を刺激し能力開発を業績へと結びつける公平で納得性の高い人事評価制度を構築。人事評価制度の仕組と人材育成の理念を書籍として出版(下記【著書】参照)。書籍の出版を契機に「ITスキル標準」に関する研究活動に参加(下記【所属団体・社外活動】参照)。現在は、プロジェクトマネージャーとしての役割を後進に任せ、コンサルティング業務に専念。社内の人材育成だけでなく、UISS活用ワーキンググループのメンバとしても活動。

【保有資格】
ITストラテジスト、プロジェクトマネージャー、特種、一種、二種
特定非営利活動法人ITCA認定:ITコーディネータ 
米国PMI認定:PMP(プロジェクト・マネジメント・プロフェッショナル)

【実績】
・ITスキル標準を活用した「人材育成/人事評価制度構築」コンサルティング(実績:IT企業全国11社)
・UISSを活用した「人材育成制度構築」コンサルティング(実績:大手生保1社)
・人材育成・人事制度に関するセミナー講師(延べ33回1,170名 内自社開催9回453名)
▼ 自社開催セミナー『育つ社員のつくり方』の取材記事
http://www.nextet.net/e-learning/69/feature/sp04-1.html
・神奈川県内大学・高校の社会人講師 数校

・2009年度専門化コミュニティ活動表彰(経済産業省 商務情報政策局長表彰) 受賞
http://jinzaiipedia.ipa.go.jp/view/18/545/
・2010年度(第21回)iSUC一般ユーザー部門優秀講師賞(GOLD) 受賞
http://www.uken.or.jp/isuc/isuc21/about/history.shtml#02
→IBMユーザー研究会機関紙「IBM USERS」2011/1(585)号に講演抄録掲載
http://www.uken.or.jp/users/pdf/users585-w.pdf

【著書】
・「情報処理企業のためのキャリアパスによる人材育成・人事評価 運用と実践」(2002年12月初版)
・「ソフトウェア企業は人材育成なくして生き残れない ―人を育てる4つの柱―」(2006年9月初版)

上記のセミナー、書籍、コンサルティングに関するご意見・ご質問およびお問合せは、下記宛てにメールにてご連絡ください。
consult@sunnet.co.jp

【所属団体・社外活動】
・ITスキル標準センター「ITスキル標準ワークショップ」(2003年度)
・ITスキル標準センター「ITスキル標準を活用した人材育成のあり方に関する検討委員会」
・JUAS(社団法人日本情報システムユーザー協会) 人材育成研究部会
・UISS(情報システムユーザースキル標準)
2006年度:策定WGメンバ、 2007年度:改善WGメンバ、2008年度:改定WGメン 、
2009年度:活用WGメンバ
・JSDG:日本システムアドミニストレータ連絡会 正会員
(2008年度:全国大会幹事長、2009/2010年度:副会長、2011年度:会長) 
・JISTA:日本ITストラテジスト協会 (旧JSAG:日本システムアナリスト協会)正会員

【リンク】
・UISS(情報システムユーザースキル標準)
http://www.ipa.go.jp/jinzai/itss/uiss/uiss_download_Ver2_2.html

・JSDG(日本システムアドミニストレータ連絡会)
https://www.jsdg.org/

・JISTA(日本ITストラテジスト協会) 旧JSAG(日本システムアナリスト協会)
http://www.jista.org

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