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●第十四回 「育て上手は回答上手」

 前回は、仕事に就いたばかりの社会人一年生の仕事振りを想定して「質問上手」の話を取り上げました。今回は、それに対する「育て上手」の行動を考えてみたいと思います。

【場面その12】
 分からないことがあって困っている社会人一年生から質問を受けました。先輩社員のあなたならどういう対応をしますか?

1.質問に対する回答のみを、「こうすれば良い」と簡潔に返す。

2.質問に対する回答に加え、「それはなぜなのか」と意味や目的なども教える。

3.質問に関係するあらゆる知識を洗いざらい教えてあげる。

4.質問を解決するためのヒントやアドバイスを与え、自分で考えさせる。

5.質問の内容と受け答えの様子から、本人がどこまで理解してどこで詰まっているのかを探りだし、それに合わせてヒントや助言を与えて自分自身で解決できるように導く。

「1. 質問に対する回答のみを、「こうすれば良い」と簡潔に返す」というのは、その質問に対しては最も効率的で手間が掛かりません。本人にその仕事を早く確実に全うしてもらうためには、一番良い答え方なのかも知れません。ですが、本当にそれだけでいいのでしょうか。
 その仕事は上手くこなせたとしても、相手はあなたの指示に従っただけで、新しい何かを学べるでしょうか。その後、同じような状況に陥った時、相手は自分の力で解決して先へ進むことができるでしょうか。
具体的な方法を教えてあげれば、自分でその意味を考えて理解し、同じような状況に臨機応変に対応して問題を解決していく、つまり自分自身で成長していく「育ち上手」も確かにいます。そういう「育ち上手」には、それで充分ですし、それ以上の詳しい説明は無駄になるかも知れません。その見分け方のひとつは、反応の仕方です。「ああ、なるほど、それはこういう意味ですね。こういう意図(目的)があるのですね」と反応すれば、それは自分で意味や目的を理解できる「育ち上手」の証拠です。ですが、最初からそういう「育ち上手」は、そう多くはいません。
 具体的な答えだけを教え続けていると、少し条件や状況が異なるだけで本質的には同じ問題であったとしても本人はそれに気づかず、いつまで経っても同じような質問を繰り返してしまい、なかなか自分で解決できるようにならない、ということがありがちです。そうなると、あなたはそのたびに質問を受けることになり、結局はお互いに非効率になってしまいます。
 それは、相手が学ぼうとしないということだけではなく、あなたの教え方にも工夫の余地がありはしないでしょうか。
「育て上手」は、質問に対する回答だけを簡潔に返すようなことはしません。それは、質問に対する回答の仕方で、相手の育ち方が大きく変わることを良く知っているからです。

「2. 質問に対する回答に加え、「それはなぜなのか」と意味や目的なども教える」というのは、相手を成長させる教え方の第一歩です。
質問された事柄を解決する表面的な対策として、何をすれば良いかということだけでなく、なぜそれが必要なのか、なぜそういう手順なのか、その意味も分かりやすく説明し、理解させることです。それが理解できれば、同じような問題に出会った時に、自分で対応できる可能性が高まります。

「3. 質問に関係するあらゆる知識を洗いざらい教えてあげる」というのは、とても親切で丁寧なようにも見えますが、それは必ずしも相手のためにはなりません。受け取る情報の量が多いと、重要な情報の印象が相対的に薄まり、大事な事が伝わりにくくなってしまいます。
 なんでもかんでも教えてあげる、というのは、教える側になったばかりの頃にありがちな誤りです。でもそれは、教える側のエゴです。それは自己満足に過ぎません。
「育て上手」は、その時その場のその状況において、もっとも重要なことに絞り込んで教えてあげることで、重要なポイントが相手の印象に残るようにしています。

「4. 質問を解決するためのヒントやアドバイスを与え、自分で考えさせる」というのは、意味や目的まで教えるよりも更に高度なことですが、これが実は大変重要なことなのです。
 意味や目的が理解できれば、同じような問題に自分で対応できる可能性が高まります。しかし、実際には、同じような問題に出会っても、それらが本質的に同じことだと認識できるようになるには、少し時間が掛かるケースが少なくありません。
「同じような質問ばかりしに来る」と感じる相手は、そこがまだ不充分なのかもしれません。そういう時は「またか・・・」と思ってしまうこともあるでしょうが、「これはあの時のあれと同じだよ。こういうことでしょ。すると、何をすれば良いのか、もう分かるでしょ。何をすれば良い?」と、本質的に同じであることを教え、対応策を自分で考えさせるといいでしょう。これを繰り返すことで、自分でそれに気づくようになっていくのです。

「5. 質問の内容と受け答えの様子から、本人がどこまで理解してどこで詰まっているのかを探りだし、それに合わせてヒントや助言与えて自分自身で解決できるように導く」というのは、更にもう一歩進んでいます。
 相手の質問の意図を正確に理解し、その解決に必要な表面的な対策だけでなく、その陰に潜む本質的な問題を突き止め、その原因を分析して根源的な理解させて、自分でその原因を突き止められるような疑似体験を繰り返す、という高度な「育て上手」です。
 これを繰り返すことで、そのうち「ああ、なるほど、これはこういうことだったのですね」と、自分で気づくように成長していくことでしょう。

 このように、「育て上手」は質問に対する回答の仕方が上手です。時と場合によっては、質問を受けながら、「なぜそう思ったの?」「それは客観的事実?それとも自分自身の推測?」「他に似たような現象はない?」「最近、同じようなことが起きた覚えはない?」という具合に、逆に質問を投げかけて、相手の状況を正確に理解しようとします。相手の状況に応じて、回答の仕方や内容を変え、段階的に自分で解決できるように導くのです。

 逆に、質問する側も、単純に直接的な解決策だけを教えてもらうのではなく、自分自身で解決できる力を養えるように、ヒントやアドバイスをもらいながら、意味や目的や本質的な課題をしっかりと理解するように努力することが必要です。つまり、質問の回答を受ける態度が極めて重要なのです。「質問に対する答えだけをズバリ教えてもらい、言われた通りに行動するだけ」という態度では、いつまで経っても成長することはできないでしょう。

 質問の仕方と回答の仕方、表と裏の関係です。回答上手は質問上手でもあります。相手の思考経路を推測し確認しながら会話することが上手です。それは、人と人とのコミュニケーションの中から養われるものでしょう。積極的に質問し、考えながら回答する、その繰り返しの中で訓練されていくものだと思います。

 次回からは、また別の場面を取り上げて、別の観点から「育て上手」「育ち上手」の特徴を考えてみたいと思います。

 ご期待ください。

********* 【筆者プロフィール】 ****************************************

島川 孝博
 サンネット株式会社(http://www.sunnet.co.jp/html/) コンサルティング事業部 部長。

 横浜市立大学卒業後、株式会社小田原電子計算センター(現サンネット株式会社)入社。システム開発業務に従事しながら、自社の新入社員教育体系を構築し、社内教育テキストを執筆。プロジェクトマネージャーとして数々のプロジェクトを担当する課程で、知識や技術だけでなくヒューマンスキルが重要であることを痛感し、社内教育体系を整備。社員の成長意欲を刺激し能力開発を業績へと結びつける公平で納得性の高い人事評価制度を構築。人事評価制度の仕組と人材育成の理念を書籍として出版(下記【著書】参照)。書籍の出版を契機に「ITスキル標準」に関する研究活動に参加(下記【所属団体・社外活動】参照)。現在は、プロジェクトマネージャーとしての役割を後進に任せ、コンサルティング業務に専念。社内の人材育成だけでなく、UISS活用ワーキンググループのメンバとしても活動。

【保有資格】
ITストラテジスト、プロジェクトマネージャー、特種、一種、二種
特定非営利活動法人ITCA認定:ITコーディネータ 
米国PMI認定:PMP(プロジェクト・マネジメント・プロフェッショナル)

【実績】
・ITスキル標準を活用した「人材育成/人事評価制度構築」コンサルティング(実績:IT企業全国11社)
・UISSを活用した「人材育成制度構築」コンサルティング(実績:大手生保1社)
・人材育成・人事制度に関するセミナー講師(延べ33回1,170名 内自社開催9回453名)
▼ 自社開催セミナー『育つ社員のつくり方』の取材記事
http://www.nextet.net/e-learning/69/feature/sp04-1.html
・神奈川県内大学・高校の社会人講師 数校

・2009年度専門化コミュニティ活動表彰(経済産業省 商務情報政策局長表彰) 受賞
http://jinzaiipedia.ipa.go.jp/view/18/545/
・2010年度(第21回)iSUC一般ユーザー部門優秀講師賞(GOLD) 受賞
http://www.uken.or.jp/isuc/isuc21/about/history.shtml#02
→IBMユーザー研究会機関紙「IBM USERS」2011/1(585)号に講演抄録掲載
http://www.uken.or.jp/users/pdf/users585-w.pdf

【著書】
・「情報処理企業のためのキャリアパスによる人材育成・人事評価 運用と実践」(2002年12月初版)
・「ソフトウェア企業は人材育成なくして生き残れない ―人を育てる4つの柱―」(2006年9月初版)

上記のセミナー、書籍、コンサルティングに関するご意見・ご質問およびお問合せは、下記宛てにメールにてご連絡ください。
consult@sunnet.co.jp

【所属団体・社外活動】
・ITスキル標準センター「ITスキル標準ワークショップ」(2003年度)
・ITスキル標準センター「ITスキル標準を活用した人材育成のあり方に関する検討委員会」
・JUAS(社団法人日本情報システムユーザー協会) 人材育成研究部会
・UISS(情報システムユーザースキル標準)
2006年度:策定WGメンバ、 2007年度:改善WGメンバ、2008年度:改定WGメン 、
2009年度:活用WGメンバ
・JSDG:日本システムアドミニストレータ連絡会 正会員
(2008年度:全国大会幹事長、2009/2010年度:副会長、2011年度:会長) 
・JISTA:日本ITストラテジスト協会 (旧JSAG:日本システムアナリスト協会)正会員

【リンク】
・UISS(情報システムユーザースキル標準)
http://www.ipa.go.jp/jinzai/itss/uiss/uiss_download_Ver2_2.html

・JSDG(日本システムアドミニストレータ連絡会)
https://www.jsdg.org/

・JISTA(日本ITストラテジスト協会) 旧JSAG(日本システムアナリスト協会)
http://www.jista.org

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