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<連載第8回>その時々のベストの選択を選ぶ「クリティカルシンキング

「クリティカルシンキング」は、ものごとを客観的に観察して批判的な思考を持つと捉えられことがありますが、ここでは、批判的な思考を指すのではなく、ものごとを正しい方法で捉え、ものごとの本質をつかむ視点を持ち、選択とその結果を熟考することのできる力を指します。そもそも語源となる英語の”Critical”には、ある生理学的現象が起こるために「決定的な」「欠くことのできない」事象のことを指します。よって、そのようなポイントを掴める思考力があるかどうかを問うています。


いずれも正しい選択肢の中から、どちらかを選ばねばならない「決定的瞬間」

 小学校高学年から私のもとにカウンセリングに通っていた青年がいました。中学、高校と学校の生徒からいじめを受けるなど、同学年の生徒と比較して随分苦労して成長してきました。大学に入り、一年間音沙汰が無かったので、元気に過ごしているかなと思っていたところ、つい最近、学校のことで悩みがあるので相談したいと再び訪ねてきました。
 話を聞いてみると、彼が所属する大学のクラブ活動で、モラルに反した行動をとる部長や先輩が数名おり、自分としては好きなクラブ活動を続けたいのだが、彼らの行為は正さなければならないという気持ちがあり、どうすればよいか分からず悩んでいるとのことでした。
 彼は、たとえ先輩であっても正しいことを正しいと伝えることができます。しかし、それで先輩の行動が変わるかは疑問で、それ以上に、彼が先輩からやり玉に挙げられ、耐えきれないようないじめに遭う可能性もあります。このような面倒なことにエネルギーを注ぐのではなく、さっさと退部して、やりたいことができる場所を探すという選択も考えていました。

コラムイメージ

 部に残り、道徳観に欠けた先輩たちとうまく対処しながら、好きなことを続けるということは、個人の願望を満たすという点では十分価値のあることです。
 一方、気持ちよく好きなことを継続してできるように、モラルに反している先輩たちをクラブから追い出すという選択は、道徳上非常に高いレベルでの行動で、本人の倫理性の高さを示す行為です。
 この選択をすると、エネルギーを随分消耗しますから、そのエネルギーを温存して、好きなことができるより良い場所を探すというさらに別の選択は、「敵」からの攻撃から身を守り、個を存続させるという観点から悪い選択ではありません。各々の選択はそれぞれ異なった視点から検討してどれも正しい論理が働き、明らかに間違った選択はありません。

 このように、どちらの選択も正しい選択の中からどちらかを選ばなければならない瞬間を「決定的瞬間」(Defining Moment)と呼びます。

「決定的瞬間」の選択により、結果は大きく変わる

 この「決定的瞬間」で行った選択は、別のケースを選択した場合とまったく異なる結果をもたらします。
 たとえば、以下のような事例があります。ある医療機器メーカーの商品に欠陥が判明して、リコールになる前でしたが自主的に商品を回収することにしました。大きな欠陥ではなかったため、たとえ消費者が購入して使用しても問題は無かったのですが、この会社は「組織価値」を維持するために、自主回収という道を選んだのです。
 その結果、一時的に商品在庫が底をつき、販売店や消費者に迷惑をかけてしまいましたが、組織は道徳的に正しい行いをしたため、この会社に対する否定的なメッセージが世に流れることはありませんでした。

 この選択は、論理的に考えて、結論を出した結果得られたもので、大きな決断であったことには間違いありません。営業利益は一時的に落ち込むため、会社にとってはマイナスの結果を与える選択だったわけですが、「組織価値」を貫く観点からすると意義深い選択でした。結果的には、モラルの高さを世にアピールすることができたのです。

「決定的瞬間」に見えてくる、その人の本質

 前述の大学生の彼が直面する課題はどうでしょうか? 彼が考えている選択肢の一つを選べば、それ以外の選択肢に含まれることは、行使されなくなるのです。それは本来、放置されるべきことではないかもしれません。彼にとってはジレンマです。後悔するかもしれません。

 このように、重要な決断を下す必要がある岐路に立たされた場合、避けられない特徴が表れます。まず、その人の本質(本性)が明らかになることです。心の底で何を考えているのかが分かります。これは、普段の言動がそのまま表れることもありますし、意外な反応が見られることもあります。

 次に、「決定的瞬間」にはその人の生き方が試されます。人生には選択する機会が何度も訪れます。その都度の選択には、その人の生き方が表出します。そして最後に、生き方の表出の延長線に、その人の人格が形成されるのです。

【「錨」(アンカー)によって人生を全うする】重要な判断を下すときには、全人格をかけて決断する。その決断により、人の行く先が決まる。その延長線に人格が築かれる。このプロセスを経て、人格は形成されていく。

 

 

参考文献
ジョセフ・L・バダラッコ.「決定的瞬間」の思考法 東洋経済新報社、2004年

<関連リンク>
人間力診断(TM)(総合コンピテンシー診断)

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********* 【筆者プロフィール】 ****************************************

奥村氏

奥村 幸治 Koji Okumura
ブリガム・ヤング大学カウンセリング心理学博士課程修了、心理学博士。
R.C.Bennion代表。ネクストエデュケーションシンク顧問 「本郷人間塾(TM」」 塾長。立教大学大学院ビジネススクール講師。立教大学ビジネス・クリエーター創出センター研究員。さめじまボンディングクリニック心理カウンセラー。NPO国際ボンディング協会理事。

ユタ州ISAT心理セラピスト、ユタ州立ユタバレー大学ウェルネスセンター・心理カウンセラー、行動心理学部講師、ファイザー製薬株式会社、日本DBM株式会社、リクルート・ワークス研究所、パーソネル・ディシジョンズ・インターナショナル(PDI)コンサルタント。ニューポート大学大学院客員教授。東京福祉大学心理学講師を経て現職。

専門は組織の人材開発全般に関わるコンサルティング、コーチング、キャリアカウンセリング、トレーニング。産業・心理アセスメント。心理カウンセリング。リーダーシップ、クリエーター、キャリアに関する研究。

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