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シンクロニシティ 〜 絶妙な好機 〜

 仕事で大きな壁にぶちあたったり、解決方法が見つからず、八方塞状態で悶々と暮らしているとき、転職してきた会社の同僚、顧客、友人を通してたまたま知り合った人、このような人たちから思いがけない助けを得て、苦難を乗り越えられたことはないでしょうか。

 そのような出来事が偶然起こるたびに思うことは、「何故なのか」という疑問です。何故この時期に、例えばAさんという人が私を助けてくれたのかということです。それと同時に、どうしてこんなにうまくことが運ぶのか。本当にこれでよいのか。何か狐につまれた感情を抱いてしまいます。いくら考えても、もがいてもうまくいかなかったプロジェクトが、何かのきっかけで突然好転しだす。スイスの心理学者であるユングは、このような現象をシンクロニシティという言葉を使って表しています。彼の著書『 Synchronicity: An Acausal Connecting Principle 』の中で、シンクロニシティを「二つ以上の出来事が重要な意味を持って同時に起こること。そこには単なる好機の到来以外の何かが関わっている」と定義しています。ある人は、シンクロニシティで起こる偶然性を非人間的な力が働いたことによって発生したことと捉え、あたかも『神の導き』があったかのように考えます。自分の力の範囲内ではどうしようもないところで、いわば奇跡的なことが起こったわけですから、ユングが話すように、「単なる好機の到来以外の何かが関わっている」としか思われません。

 ここでユングについて少しご紹介しておきます。御存知の方も多いと思いますが、ユングは分析心理学を生み出したスイスの精神科医です。 1907 年ユングが 32 歳のときに当時 51 歳であったウィーンの精神分析家のフロイトと初めて会い、その後、双方親交を深め、ユングはフロイトを師匠として尊敬し、フロイトはユングを愛弟子として熱心に指導しました。しかし、フロイトの理論に疑問を持ったユングは 1913 年フロイトと決別し、しばらく人との接触を避け、自己内省の『旅』に出たのです。ユングにとって、フロイトとの決別は「死」を意味し、これまで慕っていた人物を喪失する深い悲しみを経験したのでした。当時のユングは、今で言う「うつ病」に似た状態だったと考えられます。しかし、その後、長年にわたる自己内省で得た結果を書物にして、ユングの代表的理論や考えである『タイプ論』『自我と無意識との関係』『無意識の心理学』『心理学と宗教』『意識の根源について』が世に出されました。『 Synchronicity 』の出版は、実はユングが 76 歳のときに記されたもので、この書物が、ユングの人生の後半に出版されたことは、自分の人生を振り返り、過去にブレークスルーとなったことがいかに起こったかなど客観的に過去のことがらを判断することができたからではないかと推測します。

 さて、それでは、シンクロニシティについてもう少し深く考えてみましょう。今回のコラムの前半で、「何故Aさんが自分を助けてくれたのか」と書きましたが、発想を逆にすると、「何故(助けられる人が)自分なのか」と問いかけることもできます。自分を助けてくれるためにAさんが現れたのか、それとも、Aさんが誰かを助けるために自分が存在するのか。双方が存在しないと、シンクロニシティは起こらないわけです。ここに、現実という真実があると思います。前回のコラムで ontology について触れました。人が自己の存在( being )をきちんと把握できているときに、人生におけるターニングポイントの意味を理解できると。

 幸いにして、私のメンターとはユングのように決別していませんが、私の尊敬する恩師の一人で、心理学の理論や哲学の領域で著名な Williams 氏は、「環境が人を変えていくというよりも、人が環境を形作っていく」ということをよく話していました。

 変わるということは、自分が存在するだけでは起こりえないことが分かります。「変わる」は、一人称、二人称、三人称というように単独では捉えることができない現象のようです。

参考文献

ジョセフ・ジャウォースキー( 2007 )『シンクロニシティ』英治出版
山中康裕編( 2001 )『ユング』講談社選書メチエ
Jung, C. G. ( 1952 ) Synchronicity: An Acausal Connecting Principle


********* 【筆者プロフィール】 ****************************************

奥村幸治
パーソネル・ディシジョンズ・インターナショナル・ジャパン株式会社(PDI)コンサルタント 人材開発に関わるコンサルタント、アセスメント、トレーニング、コーチングに携わる。ブリガムヤング大学カウンセリング心理学博士課程終了。心理学博士。NPO国際ボンディング協会理事。さめじまボンディングクリニックカウンセラー

奥村幸治氏講演 “人間力セミナー(無料)” 2008年9月26日開催
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