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■ 日本的雇用は欧米に対し優位か

日本的雇用は欧米に対し優位か

 一時期、アメリカ流のコーポレート・ガバナンスの考えを取り入れるべきだ、もっと株主利益を重視すべきだとする声が内外に高まった。株主の利益を大きくするには、株価を高めること、それには大きな企業利益を出すことが重要になる。しかし、それが行き過ぎたため、今回の金融危機を招く一因になったといえるであろう。いま、世界中で、資本主義のどん欲さが批判にさらされている。
 おそらく、反動的に、株主利益優先の経営の考え方に逆風が吹くだろうと想像される。アメリカにおける企業経営にも変化が現れるかもしれない。しかし、政府の介入や監視が強まるものの、本質的にはあまり変わらないだろうとも思われる。

 一方わが国では、より顕著に反動が現れるものと想像される。もはや、アメリカ流の経営システムが世界標準だといった論説は姿を消すに違いない。だからといって、昔の日本型の"家族的"企業経営には戻ることはないと思う。経営者も、従業員もすでに世界の影響を強く受けて変質している。
このたびの急な不況の到来により、自動車産業を中心に、派遣社員の契約打ち切りが大きな社会問題になり、企業の利益優先に批判が浴びせられている。しかし、もはや経営者はなんとしてもわが社の社員を守るということを第一優先にできなくなった。社員はわが家族という意識だった頃なら、人件費削減は最後の手段とし、他の費用の削減や売上げ維持に奔走した。
社員のほうも変化している。就職した会社で定年までずっと働くと考える社員は少なくなった。会社のことよりも、自分の利益を考える風習が広がっている。今後、ますます個の意識が高まり、個人利益や価値観を優先していく傾向は強まるに違いない。
これからどう変わっていくか、企業によって違いがあるが、このような潮流を押しとどめるには莫大なエネルギーが必要だし、それを実行する経営者は少ないだろうと思う。

 社員を家族のようなものとして考える場合には、人事を戦略とする思想は生まれにくい。人をモノ的に扱うことはタブーだからである。「これまでも人事戦略はあった」という反論があるだろう。しかし、それは優秀な人材の確保や育成といったことで、戦略というよりは戦術に近いものではないか。目先に明確な到達すべきゴールがあり、その実現に目的がある。これに対し戦略は、ゴールをどこに置くべきかということから問題は始まる。敵の特定の陣地を攻め落とすための方法が戦術であるのに対し、戦略は、攻撃前のものであり、攻撃を継続すべきか、止めるべきかというところまで議論される。
「会社にとって人は宝だ」とする考えについては、これまでは誰も疑問をはさまなかったし、これからも倫理的に人が大事だとする価値観が崩れることはない。しかし、企業経営にあっては、戦略的に考えることは不可欠になる。無人工場という選択肢もあれば、少数精鋭にし、アウトソーシングでいくという方法もあろう。
国民に働く機会が与えられねばならない。 国が富むにはそれは不可欠だ。
しかし、それを企業が考えねばならないのかどうか、国や公共的機関の責任ではないか、という議論はある。企業の社会的責任がいろいろといわれているが、どこでその線を引くかは難しいことである。社会に損失や危害を与えてはならないが、社会利益をもたらすところまで責任があるのかどうか。

 欧米はいま、これまでの経営姿勢やシステムや資本主義自体にも疑問の目を向け、動揺が見られる。このような状況にあって、わが国が独自の経営システムを創り出すことはきわめて意義のあることだと思う。もはや一般論の盲目的追従や、評論家のあるべき論に盲従することはやめ、自社としてどうすべきかを戦略としてとらえる姿勢が求められる。
人事戦略ではなく、「戦略的人事」が必要である。戦略とは、目先の状況にとらわれることなく、これまで当然のこととして疑問を感じなかったことにも問題を設定し、目標を定め、それを実現するために、最も効果的な方法論を打ち出すことだ。どうありたいかをまず明確にして、そこに至る道を考えねばならない。それには、確かな状況分析と方法論についての調査や研究が必要となる。

 一般論だが、人事部において、これまであまり戦略的に考える伝統や習慣に乏しかったのではないかと感じる。新卒採用の問題、社員教育、入社後の早期退職の防止、社員の意識改革といった問題への取り組みは真剣になされてきたことは疑問の余地はない。長期的、あるいは本質的な人事戦略に欠けるところがあったのではないだろうか。
若い人たちが、今後、どのような人生観や仕事観を持つのか、仕事への能力発揮や生産性向上の有効方法は何かなどについてしっかりとしたビジョンや方法論を確立する必要がある。独自の体系的な社員研修プログラムを開発したという会社は少なくないが、めざす効果と実際にそれが効果を発揮するかどうかの確認なしでは、計画倒れ、理論倒れに終わってしまう。日本流の経営が復活すると安易に考えることは間違いである。

 若者世代にこうあれと期待し、計画を立てても、流れを変えることはできないだろう。 変えられなければ、経営者のほうが考え方を変えるほかない。
「いまの若い人たちはどうも」といった愚痴は禁句だ。そうした人たちをどう活かすかが問題である。彼らもまた働かねばならず、生活を守る必要がある。いずれ自分自身で悟ることになろう。それでは遅すぎるという意見はあろうが、それは教育者の問題である。
いま日本の若者たちは変化の過渡期にいる。まだ確かな方向をつかんだわけではない。「自分探し」に夢中の若い人をおかしいと否定する評論家がいるが、過渡期だからこそ悩むのだ。新たな流れを探しているのであって、これまでの潮流をうまく泳いできた人に批判する資格はないと思う。
企業もまた同じ状況に置かれている。企業も人事部も、「自分探し」をすべき時にあるのではないだろうか。

********* 【筆者プロフィール】 ****************************************
平田 周
三田教育研究所首席研究員
どうしたら若い人たちの知力、思考力、英語力を高めることができるかを研究しています。大企業、外資系企業、中小企業などでの勤務、ベンチャーの立ち上げ、大学で教鞭など、さまざまな体験をしてきました。元東京工科大学大学院バイオ・情報メディア研究科客員教授。専攻:国際情報論。
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